
和み料理「きんとき」店主:山本さん
朝、新宿から小田急ロマンスカーに揺られて約1時間。まずは小田原駅へ。そこから南足柄へ向かうために大雄山線へ乗り換える。20分ほど窓の外の景色をぼんやり眺めながら、電車はどんどん進んで行きます。見慣れない町並みを前に、このあたりで「すこし遠くへ来たなあ」と、小さな「旅」を実感して嬉しくなります。この町の観光の玄関口とも言える『大雄山駅』のロータリーに降り立つと、足柄山で育った金太郎の像。そして、みずみずしく澄んだ空気に触れることができます。ロマンスカーで食べる駅弁もいいけれど、そこをグッと我慢して、なんなら朝ごはんも我慢して、この、水と空気のおいしい町で、ゆっくりランチをいただくという旅のプラン。
駅から3分ほど歩いたところに、和み料理「きんとき」はあります。今回の旅の舞台でもある大雄山まであと少し! と、はやる気持ちは抑えつつ、南足柄はどこへ行くにもすこしの山登りですから、このあたりで腹ごしらえをしておくのは得策です。せっかく南足柄にきたので、ここで「足柄」と名のついたものや、神奈川で育まれたお肉や野菜を味わうのがとてもよいと思います。それに、水がとてもおいしい町です。お水がおいしいと、料理も自然とおいしくなります。南足柄は、どこのお店で食べるどの料理も本当においしいという印象です。特に「きんとき」はもともと、いまの店主・山本さんのご両親の代まではお蕎麦やかき氷がおいしい食堂だったといいます。水が命のせいろ蕎麦はいまでも「きんとき」のオススメのメニュー。口にした瞬間に、水のきれいさが感じられる、そんなお蕎麦がいただけます。代々守られてきたダシからつくられたカツ丼もとてもおいしい。

店の名前の由来は「坂田金時」。幼名はみんなご存知「金太郎」。
和み料理「きんとき」の山本さんに、南足柄の「あした」について伺ってきました。最盛時は150件ほどあった飲食店もいまでは半分以下といいます。年々減っていく商店。その要因ともなる地方における高齢化問題、若者を中心とする人口の減少は、どの町も抱える問題であり、今後の日本の課題とも言えます。土地柄、町に商店が点在していることもあって、なかなかつながりにくい。その点と点を線でつなげたい、と山本さんは言います。ひととひとがつながるようなアイデアを、お客さんや町のひとたちとのコミュニケーションを通じて、あしたの南足柄のために日々考える。南足柄に足を運んでくれたひとたちが、いかに「おいしい」と思える体験ができるか。よい思い出に変えていけるか。それは私たちもおなじ想いです。例えば、「きんとき」の2階の宴会場(座敷)で開催される音楽会や落語会は、実際に山本さんと仲間たちによって作りあげられています。
そんなひとりひとりのアクションがあって、町の方でも、できるだけたくさんのひとに南足柄の魅力を楽しんでもらえるように、いろいろな挑戦を始めています。食のイベントやアートのイベントなど、いろいろなところでいろいろなアイデアが少しずつつながりはじめています。例えば、おにぎりに似た『矢倉山』からヒントを得た、南足柄の新しい名物としての「おにぎり」の開発。金太郎の父・坂田金平を由来とする「きんぴらごぼう」を使った創作料理のアイデアなど。インタビュー中も、こんな料理はどうか、こんなお祭りはどうか、と私たちに話す山本さんはとてもと楽しそうです。そんな風に、いろいろなひとたちとコミュニケーションをしながら、「もっとおいしく」「もっと楽しんでほしい」という想いが詰まったアイデアが、「きんとき」の創作料理をおいしくしています。オリジナルで勝負したいというカツ煮や、しょうが焼きも、とてもとてもおいしいです。

たくさんのアイデアを私たちに楽しそうに話してくれる山本さん。
南足柄の歴史。金太郎のふるさととしての歴史。たくさんの資料や、お話で、私たちにその魅力を伝えてくれました。その町の歴史を感じる店。その町の人たちが集まる店。そこでのふれあい。きれいな景色を見て、有名なお店でおいしいものを食べるだけではなく、そんな風に町とコミュニケーションができるのも、あした、思いたった時にふらっといける距離にある町での、小さな旅の醍醐味です。むしろ、そんな風に町やひととコミュニケーションさえできれば、どんな町のどんな旅でも、すてきな思い出になります。旅の玄関先の、旅の台所。お昼におそばを食べたあの店で、帰りはゆっくりお酒でも飲みながら、今日1日の旅を振り返ってみようと思えるすてきなお店です。夜は夜で、また違ったおいしい料理やお酒が、たくさん並んでいるのですから、とてもじゃないけれど1日じゃあ足りません。何度も何度も通って、自分だけの、特別な旅先にしていきたいと思います。