東京から車で1時間。電車でなら1時間半くらい。南足柄の中心部でもある大雄山駅から、のんびりとバスで20分ほどのぼったところに、ペンション「まつが」はあります。そこは金太郎のふるさと足柄山の麓(ふもと)。ふと振り返ればあたりは山。みかんやブルーベリーなどを実らせる農園。南の島のような石垣や、駈けあがりたくなるような坂道。ひとつひとつが、手が届くくらいの自然。まるで隠れ家のようなペンションです。どこか懐かしさを感じるような日本家屋。来るたびに、いつも遠くへ来てしまったような感覚になって嬉しく思います。今日はこのあたりでのんびりしよう。あした、ここからどこへ行こう。
南足柄の自然の魅力をひとつひとつ味わうなら、1日では足りません。東京みたいにたくさんの電車が走っていて縦横無尽に動けるわけではありませんから、ゆっくりと自分の足で、手で、目や鼻や耳で、感じながらまわります。例えば「最乗寺」。山の中にひっそりと佇むお寺です。荘厳な景観はひとつも見逃したくありませんから、すみずみまでまわっていると、あっという間に時間がすぎてしまいます。金太郎の産湯(うぶゆ)として使われたといわれている「夕日の滝」も見逃せません。年に1度、太陽が滝の真ん中に浮かんで落ちることから「夕日の滝」と名付けられ、今では都心からすぐ行けるパワースポットとして人気が集まってきています(なんと滝行ができるんです)。
大雄山駅から「夕日の滝」へと向かう途中に、ペンションまつがはあります。オーナーの鈴木さんは、南足柄市の観光協会の会長でも。南足柄の「あしたの観光」について、いろいろと伺ってきました。
南足柄には美しい自然があります。ただ、住んでいるひとにとっては、それがあたりまえになってしまっていることがとても多いです。生まれた頃からあるので無理もありません。それがいやで町を出て行くひとさえいます。ただ、観光で南足柄にきたひとたちの多くは、その自然に魅了され、「住みたい」とまで思うのです。ならば、「いかにその魅力に気づき発信できるか」が、観光地としての南足柄の可能性ではないかと、鈴木さんは考えています。ペンションまつがでは、景色を「みる」観光から、「体験型」の観光へと変えていきました。ペンションの裏に広がるだんだん畑は、参加者を募って農業体験ができるようにしました。種まきから収穫、食の体験を通じて、おいしいだけではなく、1年を通じて南足柄の四季を感じられる観光体験です。一過性のイベントではなく、何度も南足柄に通いたくなるようなきっかけ作りが、あしたの観光地づくりのポイントのようです。
南足柄の1番の魅力は「くらしやすさ」だと鈴木さんは言います。自然風景はもちろんのこと、野菜や果実は新鮮で、お水もおいしい(日本の名水百選に選ばれた池「清左衛門地獄池」もあります)。車が必要になることが多いけれど、道も広く、信号が少なく、女性や老人でもとても運転しやすい町です。最近ではその環境を活かしたマラソンや自転車の練習コースとして新たな注目を集めています。きれいな空気をたくさん吸い込んで、たくさん汗をかいて、冷たい湧き水で乾いたのどをうるおす。想像するだけで楽しい。帰り道、ペンションまつがのお風呂で汗を流すこともできます。一泊すれば、おいしい食事と、ひっそりと静まりかえった月夜の散歩も楽しめます。まるで夜の森をひとりじめするかのような贅沢さ。朝早く起きて、朝露に包まれたみかん畑を眺めるのもとてもよいです。今日はどこへいこう。たくさんの自然を感じれば、きっとあしたの活力へなるかと思います。